とりかえばや




性倒錯物語です。
タイトルは直訳すると「とりかえたいよぅ」というところでしょうか。


権大納言には母違いの二人の子供がいました。
男の子と女の子。
腹違いながらも、二人はよく似ていて、たいそう美しい。
世間からは将来を有望視されていて何もかも恵まれているかのように思われました。
(なんといっても家柄がモノを言う時代ですからね)

ところが当の権大納言はとても憂鬱です。
なぜならば―。
男君の方は小さい頃から引っ込み思案で、女の子のような生活を好み、女君の方はと言えば、活発で学問も良くし、社交的であったのです。
成長するに従い、この二人の性質はますます顕著になっていきました。

そしてとうとう、男君は女性として裳着の儀を行てしまいます。
一方、女君は男性として元服を行い、中将として宮中に出仕するようになり、なんと右大臣の姫君の婿にまでなった!


・・・むちゃくちゃです。いくらなんでも、結婚したらばれるでしょう。
物語としてはここら辺でムリヤリな言い訳をしています。
つまり、右大臣の姫君はとても子供っぽく、男女の仲のことには疎いから大丈夫だ、と。
・・・いや、大丈夫って言ったって、他家に婿入りするんだよ?いくら通い婚って言ってもず〜っと自分ちにいるのと違って正体がばれちゃまずい人たちに囲まれる時間が増えるんだよ?

氷室冴子は「新釈とりかえばや物語」として「ざ・ちぇんじ」の中でこう辻褄を合わせてる。

右大臣家の姫が子供っぽいところはそのままで、
中将も実は男女の仲のことについての知識は持ち合わせてなかった。なので、あっさり結婚を承諾した。仲良くやっていればいいんだろう、くらいな感じ。
あと、自分が生理の時は「物忌み」と称して出歩かなかった、とかね。
う〜ん、なんて都合がいいんだ、「物忌み」


まあ、そんなこんなで結構ばれずに上手くやってたんですわ、しばらくは。

一方、男君の方はといえば、内侍(ないしのかみ)として宮中に出仕することに。
この物語の中では女東宮の女官になりましたが、内侍といったら普通、帝の高級秘書。しかも、帝のお手つきになることも多い。美しいと評判の内侍だから、帝も食指を動かされること間違いなし!
そんな状況の中へよく行けたものだ・・・。
宮中に女官として出仕となれば、当然住み込みだし、右大臣家の婿になった中将よりも危険なのでは・・・?

しかし、危険なのは帝ではなく、内侍本人だった!!
なんと、女東宮と通じてしまうのです!!
いくら、今まで身も心も女性のように振舞っていても、寝起きを共にしていると男性の本能が目覚めちゃうんでしょうかねぇ?

そしてあろうことか、女東宮は身ごもってしまいました!きゃあ!

話は中将の方に戻って、こちらの方でも問題発生。
なんと、宰相の君(中将の同僚)が右大臣の姫君と通じてしまったのだ!!
そして、こちらでも姫が妊娠してしまうという事態に・・・。

右大臣家では大喜びだが、中将と権大納言家では、姫が妊娠するわけがないことをよ〜く知っている。中将の妻の浮気は明らかなのです。


だけど、そんなこと誰にも言えるわけがないんですわ。下手したら中将が女だということがバレてしまう。
憐れ、妻に浮気された中将は、表向き妻の妊娠を喜ばなくてはならないのです・・・。
ま〜、本当に憐れなのは女と結婚させられた姫君の方なんだけど・・・。



女東宮の妊娠・姫君の妊娠と続き、そして更に事態は深刻なことになってしまいます。

な、なんと、宰相の君が中将に迫ってきたのです。
なに〜?男が男(表向き)に迫るだと〜?!

実は、宰相の君は元々、中将が美しいので「女だったらさぞかしムフフ・・・」と思っていたようで、ある日たまらなくなって(爆)中将を抱き寄せてみたところ、女だということが分かってしまったのだ〜。


・・・え?宰相の君ってそのケもあったの??
う〜ん、まあ最初はふざけてただけだと思うんだけどね〜。
男色の文化もあったのかな〜?
しかし節操がないな、宰相の君。右大臣の姫君に手をつけたばかりだろう・・・。まあ、当時の貴族社会では何人もの恋人を持つのが当たり前だから仕方ないんだけど・・・。その点、落窪物語の道頼は偉かったなあ・・・。



話をとりかえばやに戻して・・・。
中将が女だと知った宰相の君は、その後も逢瀬を続けます。そうして、中将も妊娠してしまうのです!!


こうなると、女東宮や右大臣の姫君の妊娠どころの話じゃない!先の二人は女性だもの。妊娠したって不思議じゃない。(問題は大きいけどね)
だけど、中将の妊娠って言ったら、それこそ「有り得ない話」。周りに与える影響も大きいよね。


そこで宰相の君は中将を密かに宇治の別荘に連れて行き、子供を産ませます。
中将は宇治で生活していくうちに、女性として目覚めていきます。そりゃそうだ、子供を産むんだもの。


さて、大騒ぎなのは京の都。中将が突如、失踪してしまったのだから。
ここで、中将の兄(内侍)が立ち上がった!宮中を飛び出し、妹(中将)を探す旅に出かけたのだ。


内侍のどこにそんな行動力があったのか?
今までず〜っと女性として生活してきたのだから行動力や考え方は貴族の他の姫と変わらないだろうに・・・。やっぱ、女東宮を愛したことで、男として目覚めたんだろうな。



で、結局、内侍は無事、中将を見つけ出すことができました。兄妹は話し合い、このまま二人が入れ替われるよう画策します。


まあ、なんて都合のいい・・・。いくらお話の上といったって、腹違いの兄と妹が入れ替わっても他人には分からないくらい似てるなんてことがあろうか?



と、ここで引っかかってたら前に進まないので、これはこれで受け容れよう。


今や女性となった妹(中将)は、内侍として宮中に戻ります。女東宮は内侍が女になって戻ってきたので嘆き悲しみます。でもまあ、それはそれ、男に戻った兄が中将となり、妹の内侍の世話によって女東宮の元に通うようになります。
いつまでも男のままの内侍(兄)と恋人同士のままでいられるわけはないのだから、女東宮はこれで幸せになれるでしょう。



困ったのは宰相の君。
妻が子供を置いていなくなってしまったと悲嘆していたら、再び中将の姿に戻ってのこのこと出仕してきたのだから。
この時点では既に入れ替わりが完了してたけど、そんなこととは露とも思わない宰相の君。なんとか中将に近づきますが、本当の男だと気付き、非常にびっくりします。



本来の姿に戻った二人。
兄はその後も冠位を上げ、順調に出世していきます。妹は内侍として帝に寵愛を受け、中宮となります。
(やっぱり帝の手が付いたんじゃないか。(苦笑)良かったね、入れ替わる前にお手付きにならなくて)


いろいろ突っ込みどころはあったけど、物語としてはめでたしめでたしで終わるのです。


*物語中、中将も宰相の君も出世して呼び名が変わっていますが、ややこしくなるため、そのまま記述しました。







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